『あの時、僕はどうすれば良かったんだろう……』

僕は病気の影響で足を上手く動かせないため、いつも杖をついて歩いています。


ある日。

仕事も無事に終わり帰宅するために電車に乗りました。

それほど混んではいなかったんですが、シルバーシートも含めて座席は全て埋まっていました。


仕方がないので、つり革を握って立っていると。

斜め前に座っておられたご高齢の着物姿のご婦人が、僕の杖に気づかれて座席を譲ってくださいました。


『替わってもらっていいのかな?』


ちょっと考えたんですが、せっかくのご好意を無駄にするのは失礼だと思い、替わってもらうことにしました。


丁重に御礼をして、座席に座ろうとしたんですが。

電車が動き出した影響で、車両が揺れ始めました。

いかんせん、足に踏ん張りが利かないため、フラついて動けません。

つり革に掴まりながら、なんとか体制を落ち着かせるまで数秒間を要しました。


その時!!


小走りに走ってきた中年くらいの男性が、椅子とりゲームよろしく、ご婦人が譲ってくださった席にサッと座りました。


『えっ!?』

と思い、しばらく呆然としていると。


『なにが悪いねん! 早い者勝ちやろう!』

と、言わんばかりに睨みつけられました。


確かに。

全て自由席なので、早い物勝ちなのは間違いありません。

それについては、何の異存もないです。


ただ。

お席を譲ってくださったご婦人の想いを考えると、心が潰れそうになりました。

お見受けしたところ、戦争をご経験されておられるお歳だと思います。

ご自身だって、ゆっくり座っていたかったであろうところ、足が悪いとはいえ僕みたいな若造にお席を譲ってくださったのに……。


ショックを受けたご様子で、何も言わず無言で歩いていかれるご婦人のお背中を見たときに、完全に心が潰れてしまいました。

本当に申し訳のないことをしてしまったと思いました。


その後、僕も何も言わずにその場を離れました。

あの場合。

僕はあの男性を批難するべきだったんだろうか?


しばらく、ずっと考えました。

でも、あくまでもルールとして考えたら、あの男性に落ち度はなかったといえばそうだし……。


残念ながら、未だに答えは出せていません。

ただひとつ。


ハッキリと言えるのは、僕はあの男性のような人間にはなりたくない。

心の底からそう思います。


そして。

どこかでもう一度、あのご婦人とお会いできるのなら。

ご好意を無駄にしてしまった謝罪と、改めてちゃんとお礼を言いたいです。


物事は全て多面的です。

それぞれの立場で、きっと言い分も変わってくるのでしょう。

だからこそ。

どっちが正しいとかではなく。

自分がやられて嫌なことは、やっぱり人にもしない人間でありたいです。


もし同じようなことがあったとしたら、みなさんならどうしますか?



-難病と共に活きる-「ありがとうの手紙」

皆さん、初めまして。 指定難病13の作家です。 多発性硬化症13と特発性大腿骨頭壊死症71の 2つの難病と共存しています。 でも、わりかし元気です(笑) 難病を持った仲間たちへ。 また、発症した頃の自分と同じ気持ちの仲間たちへ。 ちょっとした、元気や勇気を届けたい。 1人で不安になった時、僕も難病です。 誰かがここに立ち寄り、 少しでも楽になれたらいいのにな。

2コメント

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  • bld-fujimaru

    2017.10.17 23:58

    >ゅみか@月末まで低浮上。さん コメントありがとうございます! 僕もどうしたら良いのかが分からなかったですw みんな、それぞれに事情はあるから、一概には言えないですもんね。 ゅみかさんは席を譲る派なんですね! 僕はよく譲って頂く側なので、本当に助かってます! ありがとうございます! 自分の利益も、もちろん大事です。 でも、あまりにも利己的に走りすぎると、いろんな事が変わって来てしまいますもんね。 その線引きを、僕は「自分がやられて嫌なことは人にもしない」にしています!
  • 山藤さん、こんばんは。 先日は素敵な作品&お手紙をありがとうございました♪ ブログの記事とても考えさせられました。 自分が当事者だったら、何も言えないでオロオロして終わってしまうかもしれません。 私は基本的に席を譲る側なので、最近はほかの人に座られないか本当に心配になります。 特に、少し離れているところに立たれている方に停車中のタイミングで声をかける時などは、入口から新たに入ってきた乗客にはただの空席に見えているかもしれないので( ºΔº ;) 大抵席に荷物を置いて呼びに行きますが、それはそれで荷物が心配でもあり…(隣の人に見ておいてもらえば良いだけの話ですが!))…難しいです。 やられて嫌なことは人にもしない。 子供の頃から言われていてよく頭に入っているのに、自分の利益を優先にしてつい忘れがちなことですが、本当に、大事なことだと思います。